パパラギ横浜店 ブログ

遊びのログ

海中林に思う過去とこれから

今年は全国各地で緑の足が早い春だった。4月の中旬だと言うのにどこへ行っても景色はゴールデンウィークのようだと聞く。
新緑のチャンスを逃すまいと慌ててタイミングを探していた。
伊豆でも藻場が消失し江ノ島での藻場再生の現場を見た次は、藻場の再生が進んだ海を見てみたい、そう考えていた。
日本で見られる海藻はおよそ1500種と言われ、ほぼ同緯度の自然豊かなブリティッシュコロンビア州やジャイアントケルプで有名なカリフォルニア州のおよそ600種と比べても、その多様性がよく分かる。
世界に誇る日本の海中林の今を、若い緑の勢いを見てみたかった。

ようやく二日間の休日のチャンスを見つけたので、すぐさま現地にコンタクトしてダイビング器材と撮影機材をまとめて飛び出した。
初日は三陸町越喜来にある浪板ビーチへ、二日目は大槌町の吉里吉里へ。どちらも藻場再生の成果が生い茂る海だった。
社内のシフトを見れば、二日目だけは毎年宮城県女川のツアーを開催するほど三陸の自然が好きな山下くん(女川ツアー詳細はこちら)と、磯焼けと藻場を無視できないウニ業を営む小渕さん(ウニ業の詳細はこちら)も休みだった。
でもまさか日帰りで岩手に潜りに行くなんて言わないだろう…
でもでもまさかまさかと思って声をかけた。
すぐさま「行く」と連絡が来た。遊びに対する瞬発力抜群である。
そんな三人衆で突如決行したみちのくの春の旅。

いざ、海へ。

 

海況と道具

4/14(金)ポイント:大槌町 吉里吉里フィッシャリーナ コンディション:西風強めでベタ凪
気温:あったかい 水温:9℃
初日の浪板ビーチでは水温8℃を記録。過去最低水温記録樹立。インナー選びが手探りだったが普段の冬のベースインナーにモンベルのフリースワンピースにWDのボディヒートガードを重ね着。インナーの重ね着はこれが限界かもしれない。潜水時間が1時間を超えても暑くも寒くもない“無”の状態でいられたので、ひょっとしてこのまま流氷もいけるかもしれない。フードはまだしもグローブは冷えた。
水中撮影は20mmの単焦点、自然光のみで撮影。

 

吉里吉里フィッシャリーナ

朝8時半頃花巻駅に集合し、そこから車で一時間ほど海へ向かって走る。目的地は吉里吉里フィッシャリーナ。
吉里吉里(きりきり)という不思議な地名はアイヌの言葉が由来という説もあり、関東の文化とは明らかにルーツの違いを感じる。地名一つとっても背景の物語は神話のような世界がひょっこり顔を覗かせて面白い。
見渡す限り広大な敷地は綺麗に整地され、芝生が青々と海岸に続く。リアス式海岸に囲まれた海は穏やかでまるで時間が止まったように動くものは無かった。広く穏やかな海水浴場にはダイビングポイントも隣接してあった。
波打ち際までの道中には真新しく立派なトイレやシャワーだけでなく、BBQスペースもある。
聞けばここは元々震災がれき置き場だった場所だそうだ。
津波を乗り越え整備して生まれた場所で、海の水をひいた用水路のような場所ではなんと地元の小学生による昆布の養殖がされていた。ここで育った母藻を、ダイバーが海へ運び藻場の再生を促す。そこで生まれる豊かな海産資源を漁師が生活に届ける。その繋がりを活発化するために役所職員が関わり、官民で町をあげて環境の再生と教育に取り組んでいる。
津波を含めて海と暮らす人たちの文化と海への想いがたくさん詰まった公園が生まれようとしていた。

 

海中林に思う過去とこれから

水中に入るとすぐさまホンダワラの仲間が生い茂っていた。初めて「水中拘束」というものを意識したように思う。
水深5mほどだったが海藻は水面に届き、横たわり迷路のようなトンネルをいくつも作っている。その中を縫うように泳いだ。鬱蒼とした海中林はよく見ると大量のプランクトンでぼんやりとした光を纏っている。季節の上ではこれからが幼魚のシーズン。厳しい冬を終えて、まさに命が新しく始まるというときに訪れることができた。
初日に潜った越喜来湾ではアマモ場が草原のように広がるビーチがあり、その生物の豊かさも目を見張るものがある。その豊かさはリアス式海岸を飛び出し外洋まで連なり、食物連鎖の頂点であるシャチまで姿を見せるそうだ。
この海中林からシャチまで繋がっていると思うと、三陸の沿岸域の豊かさが実感できるような気がした。

 

やがて海中林を抜けると真っ白で殺風景な海底景観に変わる。
ここからは藻場保全が未着手のエリアであった。

この海岸の過去の姿がまだ残っていた。
今まで見ていた景色は、人間の介入無くしては生まれない景色だったことを思い出す。
三陸の藻場保全ではウニの食害が大きな原因を占める。海水温が下がらなくなりウニが休眠しなくなったため、本来ならその時を見計らって芽吹く海藻の新芽を食べ尽くしてしまうそうだ。
なのでウニの個体数の調整とスポアバッグの設置で海藻に有利な状況を作ることで海中林の復活を目指す。
ウニの被度と海藻の広がりと成長をコドラート法を用いて記録する。
こうして変化していく海を記録し、伝えるのもダイバーの大切な役目だ。

津波、そして世界有数の漁場。
三陸の海は厳しくも豊かな自然の物語を持つ。物語とは語り継ぐ価値のある過去のこと。
話がそれるが、こどもの日にあるCMを見た。
サントリーの天然水のCMだ。「ぼくたちは、素晴らしい過去になれるだろうか」というメッセージだった。
未来である子どもにとってやがて過去と呼ばれる我々は、今何をすべきか。
過去として物語になったとき、それは素晴らしいものになっているだろうか。

藻場保全活動については、日本のやり方に着想を得て活動を始めた国もあるそうだ。
海藻大国日本の藻場保全のノウハウが海を超えて役に立っている。その最前線を支えているのはダイバーである。

自然とともに生きるアイヌの言葉から始まったこの場所の物語は、今や世界の藻場保全の未来へ続いているのかもしれない。