パパラギ横浜店 ブログ

遊びのログ

アオリイカの原風景を求めて

今回は久しぶりに伊豆で一泊二日どっぷり遊ぶ計画を立てた。
・アオリイカの産卵床以外での産卵シーン撮影の可能性を探る
・鳥類最速種アマツバメの営巣を目撃する
・海辺に舞うゲンジボタルの撮影
・霧の中のブナの緑とモリアオガエルの卵塊を求めて天城を抜け八丁池に入る
というお題目。
どれも初夏の伊豆半島で生き物の産卵・求愛といった生態がテーマである。

天気も海況も息を揃えたように思い通りに移ろい、早くおいでと言わんばかりである。
いざ、海へ。

海況と道具

5/22(月)ポイント:脇の浜、ヨコバマ コンディション:ドンピシャ。小さな嵐が通り過ぎた直後の弱い北東。漂流物多し。夕方から夜にかけて風が変わるおかげでホタルのタイミングは風が弱まる。初日は晴れるが二日目は雨。ダラダラ降る雨。天城山中はビチャビチャのビタビタ。全部完璧。
水中写真は20mmと60mmマクロを使用。ともに人工光源は無し。
気温:暑い 水温:19℃

アオリイカの原風景を求めて

粗朶などの人工物に産卵にくるアオリイカではなく、ホンダワラ、アイゴ、アオリイカの生態系の中で産卵するアオリイカを撮影したかった。
産卵床にはアオリイカが集まっていたが、まだのほほんとしている。切羽詰まった産卵はまだもう少し先のようだ。

今ではすっかりホンダワラは生えなくなった。だが北東の風が吹くとどこからともなく千切れたホンダワラの仲間が岸に漂着する。きっと近くにまだ生えているのかもしれない。生えているならそこに産卵の可能性はないだろうか。
そこで目をつけたのはヨコバマの隣のポイントである脇の浜だった。

脇の浜の背景は隣のヨコバマの大室山溶岩とは違う払火山である。
かつて石を切り出した岩肌が緑に埋もれている。水中は海に流れ出た溶岩が根を作るような地形ではなく、崩れた岩が無数に転がる斜面を降りれば広大な砂地が広がるポイントだ。自然海岸が残る伊豆半島は陸から海のつながりが明確に見える。
そんな悠久の成り立ちを持つ自然背景の前では人も魚もちっぽけだが精一杯リラックスをしてその景色の一部になっている。

久しぶりの脇の浜を記憶を手繰り寄せながらくまなく泳ぎ回ったが、ヨコバマに流れ着くホンダワラ類が脇の浜に無いことが分かった。では一体どこから流れてくるのだろうか。
二本目はヨコバマに移動した。

 

 

 

ヨコバマでは春から夏への季節の移動が急ピッチで進んでいた。
岩陰にたくさんいる小さいよく分かんないのに始まり、ソラスズメダイは巣穴から出て青い体色を取り戻し、岩肌をせっせと掃除してメスを待っているし、クロホシイシモチはペアになり始めている。
彼らは子孫を残すという大仕事を短い夏の間に、それも嵐の合間にやってのけなければならないのだ。
一方で、生まれて間もない小さなキタマクラがハタの仲間になす術なく咥えられていた。
うっかり口からこぼれたキタマクラは膨らんだままの体では身動きが取れず沈み、水底に着く前には違うハタに飲み込まれた。
夏は静かに近づき目まぐるしい命のやり取りが動き出している。

水底を支配していたテングサは体にサンゴモ類が寄生して石化が始まっていた。かつての勢いは衰え始めている。栄養塩か日照か。バランスが変わり支配者が変わろうとしている。

水面には北東風に乗って流れ藻があちこちに見られた。
付着器ごと剥がれているものもある。いったいどこから流れてきたのだろう。もともといた場所では海中林が広がっているのだろうか。なぜ、流れ着いた先のこの湾内には定着しなくなったのだろうか。

きっとそう遠くないどこかにホンダワラの森があって、アオリイカが産卵にやってくる景色が広がっているのかもしれない。
時折やってくる流れ藻がその原風景と繋がっていると思うと、目に見えない海の広がりを感じる。

 

 

 

このあとにアマツバメの撮影と海辺のホタルを。翌朝には天城に入り、雨と霧の幽玄な森を歩いた。
どれも素晴らしく没頭したが、そこまで書くのはちと面倒なのでまたの機会にでも。